更新日 : 2023年02月24日
わたしがまだ小さかったころは、小平はほとんどが畑と雑木林だったんだよ。この辺りの土はさらさらで、石が混じっていることなんてほとんどないんだけど、たまに三角の小さな石が落ちていたの。それが、大人の親指の先ぐらいの本当に小さくて、うすべったい石なの。
おじいさんは、「これは矢の根石(やのねいし)だよ。小平は古戦場だったから、そういうものが落ちているんだ。鍬(くわ)の刃が欠けたら大変だ」と言って、畑の隅にすぐ捨ててしまったんだけどね。
矢の根石は、矢の先につける石(矢じり)のことなんだよ。
何百年も前、新田義貞というお侍が鎌倉幕府を攻めるときに、この辺りを通って行ったそうだよ。新田義貞は途中でいろいろな戦いをして、国分寺にあった武蔵国分寺も、焼き打ちしてしまったんだって。矢の根石はその時のものだよって、言われたから、わたしは何十年も信じていたんだけど、それが間違いだってわかって驚いたんだよ。
鈴木遺跡資料館へ行ったら、矢の根石と同じものがあってね。
そこで教えてもらったんだけど、石の矢じりを使っていたのは石器時代で、新田義貞のころは、もう金属の矢じりだったそうだよ。だから矢の根石は4千年も5千年も前のものなんだってね。石器時代の人がこの辺りで狩りをして、放った弓矢の先なんだって。
資料館には大昔の石器もあって、獲物の皮をはいだり、切ったりするのに使ったんだってね。そういえば、畑の中から、そんな石も出てきたことがあったよ。その時は、ただの石ころだと思ったけど石器だったのかもしれないね。
小平では大根をたくさん作っていてね。石が土の中にあると、大根が大きくなるときに当たって、二またや三またになったりするんだよ。そうなると売れないし、硬くなって味も悪いんだよ。それでそんな石はみんな、畑の隅に捨ててしまったの。
石を捨てた辺りには家がたくさん建ってしまったから、もうとっくに無くなってしまったよね。残念なことをしたよ。
(協力)小平民話の会
たまろくめぐり
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