更新日 : 2024年08月16日
東久留米市旧南沢地区の昔話です。
郷土芸能についてですが、南沢にはすばらしい郷土芸能がありまして、とにかく南沢よりも久留米の獅子舞として世間にしれちゃったわけですけど、これの苦心談をお伺いしたいわけですけど、どうでしょうか。
- そうね、苦心っていっても。あたしなんか、10代で獅子の方に仲間入りになって、習いはじめたのは、笛をやったんですけどもね。
そうですね、あれは19ぐらいのときですか、習え習えっていわれて、夜になると、笛の頭(カシラ)のところへ、おしえてもらいに行ったもんですよ。そんなとき夜おそくなるとその家のおふくろさんが、だしてくれた米のカユのうまかったこと。今でもそれはおぼえていますよ。あれは、うまかったですね。もう50年も前になりますかね。
役(ヤク)は、お互い、つごうしあったってことは?
- それは、なかったね。代々、笛ならばもう笛の家系みたいになっちゃって。それで当時はね、笛ふいてもね、3年や5年じゃ帳面にのせないんですよ。今でいう登録してもらえないんですね。
- 昔は、よく、うちのおばさんがようくいったんだよ、南沢の獅子の笛が聞こえてきたから、もうこれから寒くならあなんてね。
- 獅子舞いの段取りは9月1日に、総代のお偉方が寄り合いして、今年もまた獅子をやろうということになったわけですけど、その当時の獅子の寄り合いはね、いちばんやっぱし力があったのは、獅子頭(シシガシラ)ですね。
- あれね、獅子頭はね、昔からあの首の振りがむずかしんだっていうだけども、その相談するにも獅子頭にね、ごきげんをお伺いしないとお祭りなんか出来なかったんですよ。
ほうそうですか。
- ところがね、獅子は、あの笛がなければおどれないんだけれどもね。
あっなるほど。
- でも、笛はほんと下っぱだった。重さをもたなかったですね。
- ところがそういうふうに、やっぱり犠牲的なね、笛ってものは、たしかにあってね、そしてあの獅子の頭もたってたんですね。
- それにしても、獅子舞いっていうのは、大変な仕事だねあれは。
- うん。
今でもその「頭制度」ってあるんですか。
- あるんです。
やっぱり絶対の権限もっているんですね。
- 今はそうでもないけど。(笑い)
- ま、やっぱり時代だね。
- 昔の様にエバったらね、あと誰もついて来ませんよ。
それからね、台本というのは、今でも使うんですか。
- 台本なんか、ないですよ。
それじゃ?
- 獅子のね、これといった台本はないですよ。ぜんぶね、みんな口から口と口伝えなんですよ。
- 万歳だけ、だんべえ。
- いや万歳も途中から台本を作っただね。
ほぉー。
- ですから、今これは、こういうもんだから、こうだろうっていうふうに、解釈して、文面を書くっていうことは、なかなか根拠がないからむずかしいと思うんですね。だからそのことについてあんまり、聞いてくれちゃこまるなって、いっているわけですよ。文面のないものをね、自分たちがかってに途中から文面を作ってしまってさ、それがほんとに南沢の獅子舞いのね根拠になってしまうようなものをつくりあげちゃこまるっていうわけです。
- よくね、考えてみるとね、芸術っていうか芸能っていうか、昔はヨソにそういうことをとられるっていうか、みならわれると、こまるっていうわけですね。そういう台本とかいろんなあれはねえと思うですね。
私達の想像を絶するきびしさですな、そりゃ敬服しました。
- それでね、役のことですけど、よそからまあ、お婿さんに来るでしょ、そんとね、芸がないからね、「花笠」っていうのをたのむんですよ。あれがいちばん骨なんですよ。1時間か2時間たちっぱなしでね、食事をとりにも行かれない、どこにもいかれないですよ。
大変でしょうね。
- よそから来た、お婿さんはね、みんなあれよ。今そんなことはないけんど。
- それでね、頭がいたいとか、おれは、血圧が高いとかね、みんなそれで、いいのがれですよ。(笑い)
- 無理におしつけることはできないんですよ。
なるほど。
- だって、あの「花笠」はね、はじまるとね、昔は2時間以上かかったんですよ、あの終わるまでは。
はぁー。
- 足が痒いたって、かくことが出来ないんですよ、あれは。
- それで南沢の獅子舞いは、よそへは出なかったでしょ。技術を教えなかったんだね。長男があとを、それをやるように決めてあったらしいや昔は。よそへ行くと、それを広められちゃうってんで。
まあ是非又近い機会に拝見させて、貰いたいと云うところですけども、
未だ実はですね最近の南沢がどんなに変わったか例えば、武蔵野鉄道が出来てからとか、あるいは、中島飛行機の引き込み線が出来てどんなに変ったとか、あるいは自由学園が出来てどんなんなったとか、その辺も全部実はお伺い致したかったわけですけども、残念ながら時間が足りませんので、又のキカイに是非お聞かせいただきたいと思います。
長い時間ありがとうございました。
昭和51年8月28日 (土曜日) 多聞寺にて
出典: 久留米の昔話を聞く合本復刻版 (編集・発行: 東久留米市教育委員会)
たまろくめぐり
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